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銀行APIで変わる信用情報と信用スコア

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新型の個人信用スコアといえば中国の「芝麻信用(Zhima Credit)」が有名ですが、日本でもJ.ScoreやNTTドコモも個人信用スコア事業に参入しています。金融サービス利用履歴に基づく従来の信用情報の枠組みを超えて、通信サービスやECなど様々なサービス利用履歴も活用してより精度の高い信用スコアを算出しようという取組みです。

しかし信用スコア算出に使える情報はまだほかにあります。公共料金や家賃の支払いといった決済履歴や、いつどのくらいの入金があるのかといった収入サイクルです。どのようなお金の使い方をしているのかという、良質な「信用情報」となりうる素材です。

こういった決済情報や収入サイクルの活用が、最近海外において活発になってきています。そして銀行口座情報に第三者がAPI経由でアクセス可能となる欧州では特に、銀行APIを活用した信用スコアリングが拡大していく見通しです。今回は、銀行APIが信用スコアをどのように変えるのかを考えていきます。

TarikVision/Bigstock.com

欧州のうち、特に英国における銀行API制度の状況に関する参考記事:

 

従来の信用スコアリング

信用情報機関の制度は国によって様々ですが、先進国における信用情報は基本的に、与信型の金融サービスの利用履歴のことを指しています。例えば米国ではクレジットカードや住宅ローン、自動車ローン、学生ローンなどの利用実績と、返済状況の記録が信用情報の核となっています。「信用情報」はcredit history(クレジットヒストリー)、つまり与信を受けた履歴のことにほかなりません。

これは与信型サービスを受けられる層にとっては便利なものですが、金融サービスをあまり利用しない層・利用できない層にとっては大変不便です。金融サービスを受けたことがないのでクレジットヒストリーが無く、それが要因となって金融サービス利用を断られてしまう、という悪循環に陥ってしまうのです。

カード社会と言われる米国でもこれは大きな問題です。信用情報大手のExperianによると、18才以上の米国人のうち、十分な信用情報があるのは59%に過ぎず、残りの41%の人は信用情報が貧弱なため与信型サービス利用が困難です。特に、16%の人は情報不足のためFICOスコアなど信用スコア算出ができなくなっているとのことです。

参考情報:

 

信用情報の拡大

金融サービス非利用者に対しても信用スコアを付与するには、金融サービス利用以外のデータを活用する必要があります。

そのように、「信用情報」を金融サービス利用履歴以外にも拡大することで成功した事例は、何と言っても中国の「芝麻信用」です。決済アプリ「アリペイ」を運営するアントファイナンシャルが運営する個人信用スコアリングサービスで、アリペイの決済履歴やEC利用履歴、さらにはアリババグループの配車サービス利用で発生するデータなど、金融以外の様々なデータを活用してスコアを算出しています。「芝麻信用」のスコアの活用は与信審査だけに留まらず、ホテル滞在や結婚情報サービスなど、非金融のさまざまなサービスにおいても活用されています

関連インサイト:

日本においても、J.ScoreやNTTドコモなどが、従来の信用情報の枠組みを超えた多様なデータを用いた信用スコアリングに参入しています。様々なサービスのデジタル化が進展とともに、一見関係ないようなデータに潜むつながりを抽出する分析技術の進歩がこのような動きを加速していっていると言えます。

関連情報:

 

銀行口座情報の活用

これに対し、欧米においては、いままで活用していなかった金融データを信用情報に含めていこうという動きが活発化しています。上述したような異業種による信用スコアリング参入に対して、こちらは業界によるデータ活用高度化と言えます。

例えば欧米各国における大手信用情報機関であるExperian。いままで活用していなかった家賃や公共料金の決済データや、ペイデイローンなど今まで対象外だった高利の消費者金融の利用履歴なども信用情報に含めることで、金融サービスの非利用層についても十分な信用情報を確保する取組みを進めています。消費者側も、そういった「非伝統データ(alternative data)」の活用は、自らの金融サービス利用機会の増大につながるとして歓迎する動きです。

参考情報:

そして、このような信用情報拡大における重要な情報源が、銀行口座です。与信型金融サービスよりも幅広い層が利用しており、決済や入金など日々のお金の動きを正確に把握することができます。銀行口座の動きを追うことで、今まで取りこぼしていた与信可能層を取り込むことができれば、金融業界にも消費者にもメリットがあります。

国内でも、J.Scoreはみずほ銀行が保有するデータを活用するようです。

実は銀行口座明細を与信審査で活用するというのは、欧米において長らく行われてきました。例えば住宅ローンや消費者金融に申し込む際に、口座明細のコピーを添付することで審査を有利に進められる、といったやり方です。

最近では、融資申込時に、インターネットバンキングのログイン情報を提供すると、審査がより迅速かつ有利になる、といったやり方もあります。ログイン情報を提供するのは心配、という読者の声が聞こえてきそうですが、貸金業者がそのログイン情報を使って「なりすましログイン」するということはなく、許認可を得ている信用情報機関にそれを渡し、口座明細の内容を踏まえた信用スコアを生成してもらう、ということが実際にやられているのです。

ログイン情報を用いて信用スコアリングを行う事業者としては、例えばEnvestnet | Yodleeがあります。日本のソフトバンクの出資先として国内でも名が知られています。

口座明細を見るといっても、単に残高を確認したり、入金のサイクルを確認するような単純なものではありません。例えば現金での高額の入金は信用スコアに反映しません。現金入金は、その出所が不明ですので、これは審査を有利に進めるために残高を多く見せようとしている可能性があるからです。また、振込入金も、企業からの定期的な給与振込であれば信用スコアにプラスになりますが、入金元が確認できないような場合は除外するなどします。このように、口座明細から、その人の金融生活をできるだけ正確に抽出するのがミソです。

参考情報:

 

銀行APIと信用情報

欧州と日本で制度化されている銀行API。これは、信用情報と信用スコアリングを今後大きく変えていく可能性があります。特に、許認可を受けた事業者は銀行APIに自由にアクセスできるPSD2制度が始まる欧州ではかなりのインパクトとなるでしょう。

PSD2においては、事業者は「AISP(口座情報サービス提供者)」の免許を取得すれば、欧州域内のどの銀行にもAPIアクセスし口座情報を取得することが可能です。消費者の合意さえ取得すれば、本人の口座情報をリアルタイムで取得し信用スコアに反映することができるようになっています。

欧州全域でのPSD2の運用はまだこれからですが、先行して運用が始まった英国ではすでにこの兆しがあります。以下のとおり、信用スコアリング事業者のいくつかがAISP免許を取得しています:

  • 欧州最大級の信用情報機関であるExperianもAISP免許を取得しています。口座情報を信用レポートに反映するためでしょう。
  • ほかにもCredit Kudosなど独自の信用レポートを作成する企業もAISP免許を取得しています。
  • 面白いのは、いままで信用情報機関にレポートされていなかった家賃の支払状況を、ユーザーに代わって信用情報機関(Experian)に報告することでユーザーの信用格付けを向上させるというCredit Ladder。ありそうでなかったサービスですね。

参考インサイト:

さまざまなフィンテックサービスを生み出すきっかけとなることを期待されている銀行API。信用情報サービスも大きく変わっていきそうな予感です。

(インフキュリオン メディア&ラボ事業部 森岡剛)

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