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IT大国エストニアが魅せる1歩進んだ電子サービス

キャッシュレス世界旅行レポート第5弾では、欧州2カ国目エストニアでのキャッシュレス事情を紹介する。

日本で既にトレンドとなっている「キャッシュレス」。だが、日本のキャッシュレス比率は先進国の中では非常に低いことをよく耳にする。日本のキャッシュレス化に向けたさまざまな取り組みが官民問わず行われている一方で、世界各国ではどのようにキャッシュレスが推進されているのか。そんな疑問を、インフキュリオン・グループに来年度入社する東京大学4年工学部物理工学科の森本颯太(はやた)が、内定者インターンとして「現金決済禁止という制約のもと完全キャッシュレスで世界11カ国を1カ月間単独」で調査。各国のキャッシュレス事情について現地の雰囲気とともに、その様子を7回に渡ってレポートしていく。現金が使えないからこそできる体験。現金がないと何もできない国もあれば、どんなところでもカードやアプリで決済できる国などさまざまで波乱万丈な旅となった。

第5弾はIT大国エストニアの調査である。同国の首都タリンを中心に決済手段や最新サービスを実際に体験。小国でありながら、エストニアの電子国民(e-Residents)になれる「e-Residency」やビットコインATM、レジに並ばなくても手元の端末で会計ができるセルフレジなど、日本ではあまり見ないようなサービスが多く、終始心踊る旅となった。

街中の露店でのカード利用

写真1.スーパーの入り口にあるカード決済可能な露店

エストニアは、IT大国と言われている通り、キャッシュレスで生活していても不自由なことは特になかった。レストランやカフェではカード決済が頻繁に行われており、タリン市内で見かけたほとんどの自動販売機にも決済端末が設置されていた。さらに、オーストラリアやスウェーデンでよく見かけた非接触決済がほとんどの決済端末で可能であった。また中央街のショッピングモールには、中国のAlipayやWeChat Payが利用できる自動販売機も設置されていた。

写真2.観光地付近の露店でもカード決済が可能であった

実生活において特に驚いた点としては、道端の露店や市場でもカード決済が可能であったことだ。店員によると、「観光客だけでなく、現地の人もカード決済が多いから便利」とのことだった。

中国ではこのような屋台での少額決済にはQRコード決済が普及していたが、前述したスウェーデンやエストニアでは決済端末が置いてあった。

移動は現金無しでスムーズに

2.1交通系カード

この旅では、交通系ICカードをいかに現金を使わず入手するかが鍵となってくるが、タリンでは交通系ICカードをクレジットカードで買うことができた。駅周辺のキオスクなどで店員に買いたいという意思を伝えると、カード料金とチャージしたい金額をまとめてカード決済が可能であった。タリン市内にはトラムが環状で回っており、このカードを利用するとスムーズに移動することができた。

写真3.トラムの乗車には交通系ICカードが便利

2.2「Taxify」でタクシー利用

エストニアで楽に移動するには、同国発のタクシー配車アプリ「Taxify」を利用するのも便利だ。こちらはアメリカのUberや第3弾で紹介したイスラエルのGett同様に、事前にアプリをダウンロードしてクレジットカードを登録しておけば、アプリを通してタクシーの配車やカード決済ができる。ただ、実際に乗車した4台のタクシーにはカード決済端末が設置されていた。運転手に話を聞くと、ほとんどのタクシーには決済端末が置かれているそうだ。現金の使用を避けるためにアプリのダウンロードをしたが、その必要はなかったかもしれない。

写真4.「Taxify」の利用画面

手元の端末でスキャン可能なセルフレジの普及

タリン市内にあるスーパーのレジは革新的であった。

市内のスーパーで買い物をしていると、店内の至る所でバーコードの読み取り音が鳴り響いている。購入客の手元をよく見ると、小さな端末を手にしてカゴにある商品をその端末で読み取っているのだ。市内で見かけた全てのスーパーでは、買い物をしながら商品のバーコードを端末でスキャンする形のセルフレジが導入されていた。

写真5.スーパーの入り口に設置されている専用端末

一見難しそうなこのセルフレジ。意外にも使い方は簡単であった。まずスーパーの入り口に写真5のような端末が置かれているので、その横にある機械に専用のカードをスキャンすると、端末の一つが使用できるようになる。ちなみにこの専用カードは、スーパーが入っているショッピングモール内の受付にて無料でもらうことができた。端末を持ったら欲しい商品を探し、その商品のバーコードを自分の端末でスキャンする。購入したい商品を全てバーコードスキャンしてカゴに入れた後は、出口付近で端末を返却する。最後に出口にある専用の機械に入り口でスキャンしたカードを再度スキャンすると、自分でバーコードを読み取った商品の一覧が表示される。間違いがないことを確認した後に、クレジットカードもしくはApple Payなどで決済をするだけで終了となる。

写真6.この端末で商品のバーコードをスキャンする

実際に試した感想としては、やはりレジの列に並ぶ必要がない点が便利であった。また日本でも導入されているようなセルフレジと比べると、この端末型のセルフレジであれば商品のスキャンがその場でできるので楽に感じた。

写真7.決済画面

ちなみにスーパーの出口では、購入客が実際に全ての商品を読み取ったかどうかはチェックされない。監視人を雇う人件費より、顧客が商品を持ち出す被害額の方が安いからだろう。エストニアの誠実な国民性を感じることができた。

もちろん通常のレジも存在しておりそこに並ぶ消費者もいたが、店内の至る所でバーコードを読み取っている音が聞こえ、セルフレジの使用率はかなり高い印象であった。

ビットコインATM

2017年、日本でも法改正やハッキング問題などで大きな話題となったビットコインに代表される暗号通貨。実は、エストニアには世界でも数カ所しかないビットコインATMが存在するらしく、その場所へ向かった。

設置場所はタリン市内からトラムで10分ほどの距離にある建物の一階であった。特にビットコインATMの看板などもないので事前に住所を調査しておく必要があった。

写真8.店内にあったビットコインのステッカー

中に入ると、右手の壁にはビットコインのステッカーが貼ってあり、左手にはATMのような機械が置いてあった。受付の女性にビットコインを買いたい旨を伝えたが、ビットコインの購入には現金が必要であり、残念ながら現金を持っていない自分は何もできなかった。

写真9.タリン市内に唯一あるビットコインATM

詳しく聞いてみると、このATMを利用する人は週に数十人はいるらしく、特にビットコインの値動きが激しいときにお客も増えるそうだ。他にも色々と聞いてみたが、ほとんどが企業秘密だとのことで教えてもらうことはできなかった。

数カ月後には最新のビットコインATMを導入するそうなので、興味のある方はぜひ訪れてもらいたい。

電子国民サービス「e-Residency」

IT大国という呼び名通りに、エストニアでは行政や交通機関など多くのサービスが電子化されている。その中でも近年注目を浴びたのが、2014年にスタートした「e-Residency」だ。e-Residencyとは、世界中の誰もがエストニアの電子国家の住民(e-Residents)になれるサービスのことである。

公式サイトから必要な情報を入力し登録費(100ユーロ)を支払えば、3週間ほどで電子国民カードが発行される。このカードは各国のエストニア大使館で受け取れるほか、エストニアの交番でも受け取りが可能だ。今回はエストニア国内にいたため、交番で受け取りをすることにした。

写真10.電子国民カード

電子国民(e-Residents)になると、例えば海外からエストニア法人の設立、口座開設や電子署名が行えるようになる。現時点ではビジネス上の恩恵が主であるため、EU内でビジネスをしたい人以外は電子国民(e-Residents)になっても特にメリットはない。しかし、今後このカードで使用可能な範囲が広がるかもしれないということもあり、エストニア政府の方針に期待したい。

ちなみに、電子国民(e-Residents)になったからといってエストニアの国民として居住できるわけではないので、そこは注意が必要である。

エストニアまとめ

この国はデビット・クレジットカードがあれば不自由なく生活することができそうだった。露店などでもカード決済に対応しているため、買い物に現金が必要になることはなかなかない。ただ、観光地や大型ショッピングモールでの公衆トイレの使用料は、トルコやスウェーデンと違い現金払いであった。

次回第6弾は欧州最後となるイギリスとドイツを調査。両者のキャッシュレス比率を見ると、イギリスは特に高く、ドイツは日本より低くなっています。同じ欧州内の先進国であるにも関わらず、このような違いがある両国のキャッシュレス事情についてまとめたいと思います!