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地域別に見る海外の個人間送金サービス

銀行間振込をはじめ、日本国内の為替取引に利用されている全銀システム。平日の一定時間内であれば即時決済でき、その精度の高さは当時評価されました。しかし、休日関わらず24時間即時決済が可能な海外のシステムに比べ最近では古いという声も少なくありません。

特に小口にあたる個人間送金では、電話番号やSNS連携などで手軽に送金が可能であり、相手の銀行口座情報入力すら不要な、paymoやKyashなどのスマートフォンアプリが登場しています。

そんな日本の状況と比べ、海外の個人間送金サービスはどういった動向なのかを、今回は地域別で紹介したいと思います。

北米の動向

過去の記事でもご紹介したVenmo、Facebook Messenger、Square Cashなど北米では様々なサービスが台頭しており、個人間送金サービスの市場が形成されつつあります。最近では銀行業界発のサービスであるZelle、Appleが提供するiPhoneの個人間送金機能「Apple Pay Cash」と新興勢力も注目されています。

Zelleは30以上の銀行のモバイルバンキングアプリ内で利用でき、Venmo同様に電話番号で送金が可能です。Venmoとは異なり、金融機関が運営する安全性、送金から口座の着金まで数分以内で完結する点が強みとなります。複数の銀行が手を組み、IT企業の既存サービスに対し共同戦線を張る事で、既存サービスから顧客を取り返すメッセージが込められていると考えられます。

一方で世界的なIT企業Appleが提供するiPhoneで、個人間送金機能にあたる「Apple Pay Cash」が「iOS 11.2」のパブリックベータ版として米国内で試用可能となりました。正式発表はまだありませんが、「Apple Pay Cash」はVenmoなど個人間送金アプリの様な機能で、iOSに組み込まれている点が特徴です。またテスト中の段階ですが、機能概要が以下内容で記されています。送金は、Apple Payに紐付けたデビットカード若しくはクレジットカードから可能です。送金を受取る際は、Apple Pay Cash専用のApple Pay Cashカードにチャージされ、チャージされた金額は通常のApple Payと同様に加盟店で使用可能です。また、自身の銀行口座への送金(手数料無料)や、Apple Pay Cashで個人間送金する際にも使用可能です。尚、デビットカードからの送金は手数料無料、クレジットカードによる送金は3%の手数料がかかります。

この様に多くのサービスが続々と出現しており、今後市場が更に活発化されていくと考えられます。

参考情報:

欧州の動向

キャッシュレス国家・スウェーデンのSwishが有名ですが、その他の国々でスタートアップ企業が続々と個人間送金サービスに参入してきています。

スペイン発のverseは、現在ヨーロッパを含む27ヶ国にサービスを展開しており、ユーザー数は55万人以上です。アカウント登録時に携帯番号とクレジットカード番号を入力する事で送金でき、送金で受取った残高は自身の銀行口座へ移す事も可能です。サービスの特長は、アプリ内でBBQや誕生日会などのイベントページを作成し、イベントページから募った参加者で費用を割り勘できる機能と、Venmo同様に友人間の支払いがアプリ内のタイムラインに公開できる機能です。

フランス発のLydiaは、フランス国内のサービスでユーザー数は約50万人に上り、今後はイギリス、ドイツ、スペインにサービス展開を計画しています。送金するには、電話番号で相手を検索しアカウント登録時のクレジットカードから行います。送金の受け手は、アプリ内のウォレット機能に残高が蓄積され送金用途で利用可能です。残高は自身の銀行口座に移す事も可能です。サービスの特長は、グループチャットサービス、Slackのチャットbotサービスです。Slackのチャンネルでアプリ専用チャットbotの「@Lydiabot」を利用する事で、個人間の送金が可能となります。

ドイツ発のCookiesは、ドイツ国内の約4,500の銀行口座から登録・利用が可能です。サービスの特長は、アプリ内にウォレット機能が無くアプリに登録する銀行口座の残高から直接送金出来る事と、送金時に絵文字を追加できる事です。このアプリでは通常の送金に1~3営業日かかりますが、「稲妻」の絵文字を付け加える事で5~120分での送金が可能となります。2016年時点ではドイツ国内でのみのサービスとなっておりますが、将来的にはヨーロッパ諸国への展開を予定しています。

ここまでスタートアップ企業のサービスを取り上げてきましたが、北米の動向でもご紹介した「Apple Pay Cash」が欧州連合(EU)へ商標登録を2017年8月に申請しました。申請を行ったということは、北米に次いで欧州でも同サービスの展開を計画している事を意味します。Appleの動きを含め欧州全体で個人間送金サービスの盛り上がりの兆しが見え始めていると考えられます。

アジアの動向

アジアではモバイルウォレットサービスを軸に民間発のサービスが活発な一方、政府や銀行主導でキャッシュレス化に向けサービスを推進する動きがあります。

インドのPaytmは、高額紙幣廃止によって現金から電子決済が推進され、ユーザーが増加した民間発のアプリです。また新規の顧客開拓ではアンバンク層をターゲットと置き、街中にアプリ専用の入金端末を設置する事で、銀行口座を持っていなくとも端末から入金する事でアプリ内での送金を可能としました。送金機能以外に自社のECサービスの決済を始め、携帯電話料金や電気代、タクシー料金、ホテル代などの支払いにも対応しウォレットアプリとしてユーザーのライフスタイルに浸透しています。

インドネシアのGo-Payは、バイクタクシーのライドシェアアプリ「Go-JEK」のウォレット機能に位置付く民間発のアプリです。アプリへの入金方法は、ATMやオンラインを通じた銀行口座からの入金の他に、バイクタクシー運転手への支払時に、余剰分の現金を渡し自身のアカウントへ入金してもらう事も可能です。インドネシアは成人人口の6割がアンバンク層の為、アンバンク層のユーザーでも利用出来るサービス環境が重要となります。バイクタクシーへの支払いや送金機能以外に、飲食店料理や食料品、処方薬などの宅配に対する支払いもでき、インドのPaytm同様にユーザーのライフスタイルアプリとなっております。

タイのPROMPT PAYは、2017年にリリースされた政府主導の送金アプリで、銀行口座に紐付けた携帯電話番号と国民ID番号を用いて送金します。登録ユーザー数は約2,100万人(2016年時点)で、5,000バーツ(約16,350円)未満であれば手数料が無料です。アプリを介した決済は、タイ中央銀行(BOT)とタイ銀行協会が標準QRコードを採用すると決定し、一部店舗でQR決済が可能となる予定です。今後は個人所得税の支払い・還付を受けるなどのe-タックスとしても機能していく予定です。

シンガポールのPAYNOWは、2017年にシンガポール銀行協会がリリースしたサービスです。専用アプリあるいは参加銀行の専用サイトで、携帯電話番号若しくは国民登録番号(又は外国人登録番号)の入力によって、手数料無料で24時間送金が可能です。参加銀行はシンガポール国内の主要7行で、同行で国内の個人送金額の90%を占めています。シンガポール政府はフィンテック産業を自国の政策に掲げている事もあり官民一体でキャッシュレス化を推進している動きが窺えます。

参考情報:

中国の動向

今や世界のIT業界を牽引しているアリババの支付宝(Alipay)、テンセントの微信支付(WeChat Pay)の二大アプリが中国の個人間送金市場を席巻しています。日常で起こる割り勘は当然の様にアプリを介して行われている中、お祝い時などに友人間でお金を贈る紅包を送金機能に組み込んだ事によりユーザーが増加した経緯もあります。

しかし、両アプリ共に送金機能はサービス拡充の位置付けと考えられ、モバイル決済を中心に残高に金利がつくサービス、ECサイトの取引履歴やソーシャルメディアのデータ解析によって個人の信用をスコアリングするサービスなど金融サービスを幅広く備えるアプリへ進化しています。両アプリは個人間送金市場を含め、今後もFintech分野への影響力を強めていくと思われます。

参考情報:

海外諸国での個人間送金サービス拡大

民間企業、政府や金融機関問わずサービスを打ち出している海外諸国。サービスが浸透した背景はそれぞれ異なりますが、ユーザーが持つ課題を解消し、日常生活においてあったら便利だとユーザーに感じさせる事がブレイクする要因だと考えられます。

日本でも個人間送金サービスは展開されていますが、海外に比べ今一つ盛り上がりに欠けています。サービスがブレイクするには、ユーザー視点に立ってユースケースを模索し、利便性の高いサービスである事をユーザーへ手広く認知させる事が重要ではないかと思います。