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自動車ローンと自動車購入のフィンテック

robuart/Bigstock.com

スマホ普及と消費行動の変化

スマートフォン(スマホ)の普及で大きく変化したわたしたちの行動様式。関心を持った時点でアクションをとったり、電車移動などのスキマ時間を活用して様々な処理を行ったりといったことが当たり前になりました。

このような消費者の行動様式変化は、モノやサービスの購買導線の設計にも大きく影響を与えています。実際に購入が起こるずっと前の時点、消費者が関心を持った時点で自社サービスに誘導することができるのか、そこが導線設計の勘所になっていきます。

例えば自動車購入のオートローン。通常は、自動車購入に関心を持ち、買いたい車を決め、価格が決まってから自動車ローンの手続きに入ります。ここで、金融機関が絡むのは導線の最後尾、全てが決まってしまってからのこと。しかも販売店が顧客を誘導してくれるかどうかにかかっています。

しかし、スマホ中心行動様式に対応した金融サービスを創造するのはFinTech(フィンテック)の存在意義の一つ。FinTechはどのように自動車購入導線でイノベーションを起こせるのか、それを垣間見えるような事例が米国に既にあります。本稿はそれを紹介しようと思います。

オートローンから始まる購買導線

今回紹介するのは、FinovateSpring2016にも登壇していたCUneXus社の「AutoXpress」というサービス。過去のインサイト記事でも紹介したが、これはAPI連携による異業種連携の事例でもあります。

関連情報:

上記のFinovateSpring2016でのAutoXpressのデモの流れは以下のようなものです:

  1. ユーザのスマホに、金融機関(デモでは、実在する金融機関であるDCU)からローン事前審査済の通知が来る。
  2. ユーザは通知をタップして金融機関のモバイルバンキングにログインする。事前承認済みのローン商品が列挙されている
    (審査は事前に済んでいるので、ユーザーはそれを受諾するとローンが成立する)
  3. ユーザは自動車ローンを受諾する。
  4. モバイルバンキングサイト内で、新車探しを始められる。頭金・車種・年式などを指定する。
  5. 近隣のディーラーからのオファーが表示される。価格はディスカウント済。
  6. 購入を決定する。
  7. 現在保有している車の下取りも申し込める。
  8. 自動車保険の購入もできる。複数の保険会社からのオファーからベストなものを選択できる。

自動車購入に関する全てのプロセスが、モバイルバンキングアプリで完了するというすごいデモです。実際にAutoXpressを採用している金融機関であるDCUを題材にしています。

ポイント:API連携と融資確定顧客の誘導

このデモのポイントは2つ。まず、APIを用いた異業種リアルタイム連携の事例であること。そして自動車ローンの融資確定から始まる購買導線であること、です。

まずはAPI連携。デモ内容からもわかりますが、金融機関は自動車販売店、自動車保険事業者などとリアルタイムで価格情報などを連携して購買導線を造り上げています。また、事前審査しているローン商品の中にはPtoP融資(最近はマーケットプレイス融資と呼びます)が提供しているものもあり、そこでもAPIでのリアルタイム連携が走っています。

申し込んで翌日以降に結果を受領するのではなく、ユーザは関心を持った時点で関連する全ての処理を終えることができます。関連する処理といっても金融機関で完結しないのですが、そこを異業種API連携でリアルタイム処理している、という構造です。スマホ中心型の行動様式を持った消費者に合致した購買プロセスと言えるでしょう。

そして融資確定から始まる購買導線であるということは、自動車販売業者や自動車保険業者にとっては広告宣伝コストがかかっておらず、かつ既に購入資金を持っている確実な顧客ということになり、その原資を使って価格競争力のあるオファーを出すことができる、ということになります。デモを見るとわかりますが、自動車ディーラーは2種類の価格を掲載しています。一つは通常価格、そしてもう一つはAutoXpressで購買することでのディスカウント価格。ユーザにとっては、先にローンを決めたことでお得に自動車を買えるというメリットがあることになります。

このようなサービスは日本の法制度上は難しいと思われますが、FinTechによって消費者の購買行動をどのように変えられるかという観点では大変参考になる事例と考えます。金融機関APIに関する議論が盛り上がっていますが、それが異業種連携のインフラとなったとき、どのような便利な金融サービスが出現するのか、いまから楽しみですね。

「マーケットプレイス融資」については: