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キャッシュレス化と決済コスト

国と業界が一致してキャッシュレス化の推進に取り組んでいる日本。非接触決済やセキュリティなど、ユーザ利便性を高める施策もさまざまですが、カードが使える場所を増やすことももちろん必要です。今回は、そのネックともいえるカード決済手数料について、海外の動向を紹介します。

日本のカード決済の状況

日本のキャッシュレス決済といえば、何と言ってもクレジットカード。電子マネーやデビット、プリペイドももちろんありますが、取扱規模ではクレジットカードが圧倒的です。

日本クレジット協会(JCA)の統計によると、2016年のショッピングクレジット取扱高は53兆9,265億円。2013年は41兆7,915億円でしたので、順調な拡大が続いています。

一方、当社独自調査によると、日本のクレジットカード利用者数は少なくとも2015年~2017年の期間でほぼ横ばいです(この調査結果についてはこちらのインサイト記事を参照ください)。つまり、日本のクレジットカード利用の伸びは、既存会員の利用増が主な要因であって、新規ユーザ獲得によるものではないようなのです。

すると、キャッシュレス推進に向けてクレジットカード利用を増やすためには、既存ユーザがカードを利用できる場所をさらに増やすことが極めて重要ということになります。

日本のキャッシュレス化を論じると、必ず言われるのが日本人の現金指向。使いすぎが怖い、セキュリティが不安だ。そういった、クレジットカードへの「食わず嫌い」的な非利用理由が挙げられます。

これらの利用障壁を克服して、新規カードユーザを獲得していくことはもちろん必要です。しかし、今までカード業界が苦心してユーザ獲得に取り組んだにも関わらずカード非利用である層は、いわば筋金入りの非カード層。日本のカード利用とキャッシュレス決済を伸ばすならば、既存ユーザがもっとカードを使えるようにしていくことが必要です。

参考情報:

 カード決済のコスト

お店で買い物するとき、消費者が支払う金額は、現金であってもカード払いであっても同じです。なので、カード決済にコストがかかっているとは考えたこともない消費者も多いでしょう。しかし、カード決済という便利なサービスを実現するためには様々なインフラが必要で、そのための投資回収のためにも誰かがコストを負担しなければなりません。誰がそれを負担しているかといえば、実はお店、つまりカード加盟店です。

例えば消費者が1000円の物を買い、その代金をクレジットカードで支払ったとき、加盟店は実際には1000円よりも低い金額(例えば970円)を、カード加盟契約相手であるアクワイヤラから受け取ります。その差額(この例では30円)が、加盟店が負担しているカード決済手数料です。

カード決済の手数料の構成要素は、大きく分けて3つあります。

そのうち最大のものが、「インターチェンジ (interchange)」や「IRF(Interchange Reimbursement Feeの略)」と呼ばれるもので、アクワイヤラが、カード発行会社(イシュア)に払う手数料です。アクワイヤラはそれを加盟店に転嫁するので、最終的には加盟店が負担していることになります。

インターチェンジはVisaやMasterCard、JCBといった国際ブランドが定めるもので、業種やカードの券種などによって細かく規定されています。国ごとにその料率も異なるのですが、例えば「Visa interchange」などで検索すると、米国やEUでのVisaのインターチェンジの表を簡単に入手することができます。(日本ではインターチェンジが公開されていません。)

インターチェンジはイシュアの取り分ということになりますが、3つの構成要素のうち残り2つは、アクワイヤラの取り分(「マークアップ」や「加盟店サービス手数料」と呼ばれることがある)と国際ブランドの取り分(「アセスメント」や「ブランドフィー」などと呼ばれる)です。しかし最も大きな構成要素はインターチェンジです。

加盟店にとっては取引の都度負担しなければならないランニングコストであるカード決済手数料。実は、諸外国の中には、これを法制度でもって引き下げている国もあるのです。以下では、それらの諸国の状況について紹介します。

参考情報:

海外インターチェンジ規制の状況

日本のカード業界関係者からすると、カードは薄利で大変なビジネスと言いたくなることは多いと思います。しかし、インターチェンジ規制を導入している他の先進国と比較すると、日本はカード決済手数料が高い国である、とも言えてしまう事実があります。

例えば米国。クレジットカードのインターチェンジに規制はありませんが、デビットカードについては、いわゆる「ドッド・フランク法」に対する「ダービン修正条項」が2011年に施行されており、インターチェンジが0.05%にUS$0.21を加えた金額が上限となっています。

日本ではクレジットカードに較べるとデビットカードの取扱高は極めて小さいものですが、米国など欧米諸国ではデビットカードの取扱高がクレジットカードと同等レベルである国も多くあります。米国のデビットカードインターチェンジ規制は、銀行口座保有者なら誰でも使えるデビットカードを、加盟店にとっても低コストの決済手段とするものです。(ただし、ダービン修正条項は資産規模10億ドル以上のイシュアのみが対象であるため、それ未満の規模のイシュアはインターチェンジ規制の対象外です。)

EUでは米国とはスタンスが異なり、クレジットカードのインターチェンジ上限0.3%、デビットカードのインターチェンジ上限0.2%となっています。個人カードのみが対象のため、法人カードなどは対象外です。

オーストラリアでは、中央銀行であるオーストラリア準備銀行(RBA; Reserve Bank of Australia)がカード決済コスト抑制施策を打ってきた経緯があり、インターチェンジ規制も2017年に強化されています。この新制度下では、クレジットカードのインターチェンジは加重平均で0.5%、個別取引では0.8%を超えることはできません。デビットカードでは加重平均でA$0.08、個別取引ではA$0.15または0.2%です。

カナダでは法制度による規制ではなく、VisaとMasterCardによる自主規制があります。国際ブランド自らインターチェンジを抑制しなければ政府による規制が入るという見通しの中で採られた方針です。2014年11月からの5年間で、インターチェンジを1.5%まで下げることになっています。クレジットカードだけが対象ですが、その背景にはカナダのデビットカード決済件数はIntaracブランドが半数以上を占めているという事情があります。Interacの決済手数料は1件あたりC$0.06と極めて低い水準のため、デビットカードのインターチェンジ規制がそもそも不要という判断でしょう。

このように、主にデビットカードに対してインターチェンジを規制している事例は多くあります。カード決済のコスト水準を低めることにはメリットはありそうですが、これらの国においてもそのデメリットも議論されています。例えばインターチェンジはイシュアの収益源ですので、それが低くなれば、カード会員へのポイントや特典などのインセンティブのための予算が縮小されてしまい、消費者にとってのカードの魅力が薄れてしまう可能性があります。また、加盟店が支払う決済コストは確かに下がるのですが、それで浮いたお金は単に加盟店の懐に入るだけ、つまり加盟店が得するだけ、という主張もあります。

キャッシュレス化に国を挙げて取り組んでいる日本ですので、遅かれ早かれ、カード決済コストに関する議論が巻き起こりそうです。その際には、今回紹介したような海外事例が参考になると思います。

国内でのカード決済コストに関する議論と、インターチェンジ規制の海外動向については、筆者による以下の寄稿にも詳しく書いています。

参考情報: