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米国のQRコード決済 -ウォルマートとチェース銀行の事例-

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QRコードを用いた決済でもっとも知られるのは、中国発のAlipayとWeChat。店舗でのキャッシュレス決済を一気に拡大するという快挙は、日本を含む世界中でQR決済の意義を見直すきっかけになりました。

cienpies/Bigstock.com

AlipayやWeChatのQR決済は、国際ブランドインフラを経由しない独自決済ですが、世界に目を向けると、国際ブランドカードをアプリに等速して利用するタイプのQR決済も数多く存在します。

国内で見ると、横浜銀行の「はまPay」は前者、「LINE Pay」「楽天Pay」「Origami Pay」は後者に該当します。

物理カードを取り出すことなく、スマートフォンアプリで決済を完結させられるという顧客利便性や、アプリにおいて決済とインセンティブのUXを集約できるという戦略性、さらには国際ブランドインフラに依存しせずに決済サービスする土台となりうるという点は、QR決済の特長と言えます。日本のさらなるキャッシュレス化において、QR決済は新たな武器になりうると考えます。

QR決済を、「決済インフラが未整備の新興国に限定された現象」と位置づける向きもありますが、筆者はそのように考えません。米国や欧米などキャッシュレス化が進んでいる地域でのサービス事例もありますし、非接触決済インフラが浸透していない新興国において決済用QRコードの標準化が先進するなど、世界各地で様々な動きがあります。

今回は、米国の大手事業者によるQR決済事例を紹介することで、国内のQR決済の行く末を考える材料としたいと思います。

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Walmart Pay

まずは小売の巨人・Walmart(ウォルマート)の事例から。2015年12月に発表され、既に米国内の約4600の店舗に展開を完了しているモバイルウォレットです。クレジットカード、デビットカードやWalmartギフトカードを登録して利用するもので、支払時にはレジが表示するQRコードをアプリで読み取るという「Merchant-Presented」タイプのQR決済です。

Walmart Payサイト:https://www.walmart.com/cp/walmart-pay/3205993

ところで、QRコードの決済利用においてよく挙げられる懸念の一つは、「レジでの支払い時にアプリを立ち上げる手間が、大きな利用障壁になるのではないか」という点。特に、後ろに行列が出来ているときに、アプリ立ち上げでもたつくのは、日本の消費者にはとてもいやな体験となるかもしれません。

面白いのは、「Walmart Pay」では、そのようなレジ前でのアプリ立ち上げが利用障壁になりにくい要素が散りばめられているということです。

まず、「Walmart Pay」が組み込まれているWalmartアプリ。これは、「Walmart Pay」の開始時点で既に月間アクティブユーザが2200万人もいたという巨大アプリで、十分な潜在ユーザが存在していました。買い物リスト機能や店内ナビゲーション機能、店内薬局と連携した処方箋管理機能などが支持を得ていて、アプリを開いたまま店内を回遊するよう習慣付けられているユーザも多数。

「Walmart Pay」はそのようなアプリへの追加機能としてリリースされました。来店時にいつも利用しているアプリを、店内最後のステップである決済でも使う、というのは、消費者行動の観点からもそんなに無理のない設計です。

また、レジでのQRコード読み取りステップにも工夫がありました。有人レジでも無人レジでも、QRコード読み取りは「商品スキャン前」、「商品スキャン中」、「商品スキャン後」のいつでもOKなのです。つまり、利用金額が確定する前でも、「Walmart Pay」でQRコードを読み取ってしまえば、金額確定時点で決済が走ります。QRコード読み取りのタイミングが自由なので、例えば店員が商品をスキャンしている間にQR読み取りを済ませてしまえば、アプリ操作に慌てることもありません。これはなかなか良いアイデアです。

同じような考え方のQRコード決済が日本にも登場しました。「Japan Taxi Wallet」の「到着前の支払手続き」です。

「Walmart Pay」の利用データは公表されておらず、Walmart自身は「好評でリピート利用が多い」と述べているのみ。しかしPYMT.comによる独自調査によると、「Walmart Pay」は、「Apple Pay」を含む米国モバイル決済の中で最も利用拡大ペースが大きく、また潜在ユーザの19%が少なくとも1度は利用したことがあるとのことです。

参考情報:

 

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Chase Pay

こちらは、米国JPMorgan Chase 銀行(以下チェース)が自社顧客向けにリリースしているモバイルウォレット。チェースは、クレジットカード発行枚数9000万枚以上、ショッピング取扱高約6000億ドルという超大手イシュアですが、アクワイヤラとしても最大手です。Visaとの提携により、巨大OnUsネットワーク「ChaseNet」を構築・運営していることは本サイトでも紹介しました。

Chase PayのWebサイト:https://www.chase.com/digital/digital-payments/chase-pay

「ChasePay」には、自社発行のVisaカードを登録可能。QR決済機能は、チェースと契約した加盟店で利用できます。銀行が単独で自社QR決済の加盟獲得というのは難易度が高そうに思えるかもしれませんが、既にWalmartやBestBuyなど大手を含む小売企業多数が加盟しており、好調なようです。

加盟店獲得については、Walmartなども参画してりう小売企業団体MCXが開発した独自QRコード決済サービス「CurrentC」をチェースが買収したことも有利に働いています。もともと「CurrentC」はカード決済手数料に反発した小売業界が推進しようとしたもので、MCXメンバー企業は「CurrentC」接続の準備を進めていました。

「CurrentC」自体は頓挫してしましましたが、MCXメンバーは「Chase Pay」に容易に接続できる状態にあります。また、「Chase Pay」は「ChaseNet」上に構築されているため、決済手数料は通常のカード利用よりも低く設定されており、加盟店にもコストメリットがあるのです。

このように、「Chase Pay」は単発のQR決済サービスと考えるよりも、チェースによる「独自決済圏戦略」において、顧客とのエンゲージメントを強める役割をになっているものと理解するべきものなのです。

参考情報:

 

関連インサイト:

(インフキュリオン シンクタンク事業部 森岡剛)

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